コンボ! ロイドとクラトス? (前編)

著者:ルーラー


○オサ山道にて

「――ふう、とりあえずなんとかなったな」

 ロイド・アーヴィングは襲ってきた暗殺者を退けたことを確信すると、ひとつ息をついて双剣を鞘に収めた。

「本当にとりあえずは、だがな」

 隣から聞こえるのは重々しい男の声。ロイドたちの――もとい、ロイドの幼馴染みにして再生の神子であるコレット・ブルーネルの護衛をしている傭兵、クラトス・アウリオンのものだ。
 彼はやれやれとでも言いたげに首を振って続ける。

「一対一ならばまったく苦労などしなかっただろう、私たちの実力なら、な。誰もがそれくらいの経験は積んでいる。しかしロイド、覚えておくことだ。たとえ自分よりも劣る相手であっても、きちんと連携のとれている者たちには苦戦させられる」

「あ、ああ……」

 正直、クラトスの言うことにはあまり素直にうなずきたくはなかったが、彼の言うことが正しいこともまた、事実だった。実際、あの暗殺者は自分ひとりになったとたん、攻撃してこなくなった。――いや、自分たちの攻撃を防ぐのに精一杯になり、攻撃するヒマがなくなったのだろう。一対一ならまったく苦戦しないくらいの相手だったのだ、あの暗殺者は。

 珍しく素直にうなずいたロイドに、クラトスは「ふむ」とうなった。

「私たちの戦術に足りないのはそういった連携だろうな。特にロイド、お前はすぐにひとりで突っ走る傾向がある。もう少し足並みを揃えるということも大事だぞ」

「そ、そっか……。でも、具体的にはどうやってやるんだよ?」

 ロイドが尋ねた瞬間、クラトスの目がキラリと光った――ような気がした。

「――ユニゾン・アタックというものがある。詳しいやり方はお前の剣術指南書に書き足しておこう」

 言うが早いか、クラトスは荷物袋から『剣術指南書』とペンを取り出し、早速ペンを走らせ始める。

 ――このとき、クラトスは心の中で思いっきりガッツポーズをしていたのだが、もちろんそれに気づく者はいなかった。


○イズールド周辺にて

「へっへっへっ、この街道を通ったのが運のツキだったな。金目のもの、すべて置いていってもらおうか」

 もうすぐイズールドに着く。そうしたらやっと宿で休める。その声が聞こえてきたのは、ロイドがそんなことを考えていたときだった。
 姿を現したのはロイドたちと同じ人間である。シーフにアーチャーにウィッチ。おそらくは物盗りであろう彼らを一瞥し、

「これなら楽勝だな!」

 ロイドは双剣を鞘から抜きながら、なんの気負いもなくそう口にした。
 その言葉にシーフとウィッチが表情を怒りに染める。冷静さを保っているのはアーチャーただひとり。これなら確かに、ロイドの言うとおり楽勝そうだった。

 ウィッチがファイアボールの詠唱を始める。その瞬間クラトスが声をあげた。

「調子に乗るなっ!」

 それに思わずビクッとなり、アーチャーに向かっていた足を止めてしまうロイド。彼はクラトスについ文句を言ってしまう。

「なっ、なんだよ。そりゃあ少しは調子に乗ったかもしれないけどさ――」

「……あ、いや、いまのはお前に言ったわけでは……」

 そんなやりとりをしている間に、アーチャーの矢が呪文の詠唱に入っていたハーフエルフの少年――ジーニアス・セイジの足元に突き刺さった。ダメージはないが、彼の精神集中が乱れ、詠唱を中断させてしまう。
そして、ウィッチの『ファイアボール』もまた、完成してしまっていた。

「ファイアボール!」

 接近戦を挑んできていたシーフと剣を交えるロイドに向かって、3つの炎の球が飛んでいく!

「くそっ! 粋護陣(すいごじん)!」

 ――粋護陣。少し前に旧トリエット跡でクラトスから教わった防御奥義である。ただの防御が直接的な攻撃しか防げないのに対し、この全身を包む緑色のオーラは呪文のダメージすらも軽減してくれるのだ。

「――ぐっ!?」

 しかし、もちろんだからといってダメージがないわけではない。『ファイアボール』を食らえば、やはり熱くはあるのだ。
 『ファイアボール』が放たれた瞬間から詠唱を始めていたのだろう。ジーニアスの姉――リフィル・セイジがロイドに癒しの術――『ファーストエイド』をかけ、彼の火傷をあっという間に治してみせた。

「サンキュー! リフィル先生!」

 ロイドは回復してくれたリフィルにそう声をかけると、バックステップでシーフから距離をとり、

「魔神剣!」

 剣を空振りさせて衝撃波を放った!
 見事に命中するも、シーフはまだ倒れない。しかしそこに、

「決まれっ! ストーンブラストっ!」

「――がっ!?」

 ジーニアスの魔術によって木の実ほどの大きさの石が噴き上げられる! それらは次から次へとシーフの全身を打ち据え、やがて彼はバッタリと地面に倒れ込んだ。

「助かったぜ。ジーニアス」

 しかしジーニアスは敵のアーチャーによって精神集中を邪魔されていたはず。じゃあそのアーチャーは?
 そう考えてロイドは辺りを見回してみる。すると離れたところにクラトスに追い詰められているアーチャーの姿があった。そしてそこには『ライトニング』の詠唱をしているウィッチの姿も。

「――やらせるかっ!」

 呪文詠唱を中断させようとウィッチに駆け寄るロイド。しかし彼が辿り着く前に、

「剛・魔神剣!」

 クラトスがウィッチをあっさり撃退した。残るはアーチャーただひとり。
 振り返りざま、クラトスはアーチャーに肉薄する!
 しかし彼が繰り出したのは技ではなく。

「私に続け!」

 それはユニゾン・アタック開始の合図。
 ロイド、ジーニアス、リフィルはそれぞれうなずき、短い思案のあとで技を繰り出した。

「瞬迅剣(しゅんじんけん)!」

「風迅剣(ふうじんけん)!」

「エアスラスト!」

「フォトン!」

 クラトスの鋭い突きが、そして次にそれよりも更に鋭いロイドの突きがアーチャーの身体に突き刺さる。そこに休む間も与えないジーニアスの風の刃の術とリフィルの光の術。
 すべてが決まった瞬間、アーチャーは耐えかねたように崩れ落ちた。実際、死んでいてもおかしくないくらいの連続攻撃だったのだから、無理もない。

「相手が悪かったな!」

 ロイドは双剣を鞘に収めながらアーチャーたちにそう告げた。……もっとも、聞こえてはいないだろうが。
 と、そこでクラトスの視線に気がついた。心なしか、どこか残念そうに見える。

「どうした? クラトス」

「ロイド、なぜ瞬迅剣を使わなかった?」

 これもまたロイドの気のせいなのだろうか。尋ねてくるクラトスの声はどこか震えているような感じがした。

「だって、風迅剣のほうが強力だろ? 少しでも威力の高い技を使ったほうがいいと思ってさ」

 ロイドの言うことはもっともだった。ユニゾン・アタック時はTPの消費もないのだから、わざわざ低い威力の技を出す必要はない。――素人考えならば、だが。
 もちろんクラトスは素人ではない。ユニゾン・アタック時に瞬迅剣を同時に出すことにメリットがあることを彼は知っていた。

「――ロイド。ユニゾン・アタックはただ連続で攻撃を繰り出すためのものではない。特定の技を組み合わせれば『複合特技』というものを出せるのだ」

「へえ、そうなのか。どんなのがあるんだ?」

「…………。それは私もよくは知らん。色々と試して自分で見つけることだ」

 剣を鞘に収めてクラトスはイズールドの方角へと足を向ける。
 実はクラトスは『複合特技』の出し方を知っていた。一種類のみであるが、知ってはいた。しかし、それをロイドに教えるのは甘やかしすぎだと思われ、クラトスをためらわせた。

(あと、もう少しだったというのに……)

 心の中でムチャクチャ悔しがるクラトス。彼の唯一知っている『複合特技』。それをロイドと出すのがクラトスの唯一の望みである。

 ――幸か不幸か、それから一行はモンスターと一戦も交えずにイズールドに到着した。


○バラクラフ王廟にて

 封印の間まであと少しというところで、ロイドたちは魔物と戦っていた。

「ピコピコハンマー!」

 コレットがおもちゃのような4つのハンマーを、背に翼を生やした石像の魔物――ガーゴイルに向けて投げる。そのうちのいくつかがガーゴイルに命中し、石像の魔物は一瞬、動きを止めた。

 人型のガイコツの魔物――スケルトンと剣を交えていたロイドはそれをチャンスと見て、瞬時に『獅子戦吼(ししせんこう)』でスケルトンをふっ飛ばし、

「虎牙破斬(こがはざん)っ!」

 ガーゴイルに斬り上げ、斬り下ろしの連続攻撃を加える。しかし相手は石像の魔物。しぶとさはかなりのものだった。

「アイシクル!」

 そこに聞こえたのはジーニアスの声。これでガーゴイルは倒せた、と考えるのは甘かった。ジーニアスの放った氷の術はガーゴイルには向かわず、クラトスと戦っていた巨大なクモの魔物――アラーネアを直撃した。
 そして、そこにとどめとばかりに突き刺さるクラトスの空破衝(くうはしょう)!

 ……そう、空破衝。クラトスは風迅剣ではなく空破衝を修得していた。

「露と消えろ!」

 しかしそれを嘆いている場合ではない。アラーネアが動かなくなったのを認めると、クラトスは先ほどロイドがふっ飛ばしたスケルトンに向かう。
 刹那――

「――聖なる翼よ、ここに集いて、神の御心を示さん」

 コレットの天使術の詠唱が辺りに響き渡った!

「エンジェル・フェザー!」

 3つの光の輪が舞い飛び、スケルトンの身体を斬り刻む!
 これで残るはガーゴイルのみ。

「行っくぜー!」

 剣ではなかなかダメージを与えられないガーゴイルに双剣を叩きつけるようにしながら、ロイドがユニゾン・アタックの開始を告げる。

「風迅剣!」

 ロイドの突きがガーゴイルの表面をわずかに削る。しかし、効いているようには見えない。

「空破衝!」

 これも同じ瞬迅剣から派生した技なのだから、あるいは。そんな思いを込めてクラトスはロイドのそれよりも威力が上の突きを繰り出した。これもやはりたいして効いてはいない。

「ライトニング!」

「ピコピコハンマー!」

 コレットのピコピコハンマーはともかく、ジーニアスのライトニングは効果があった。
 ロイドたちの攻撃が終わった瞬間、ガーゴイルは地面へと落下し、バラバラに砕け散る。

「弱っちいなぁ。それじゃダメだね 」

 そう言って勝ち誇るジーニアスの後ろで、クラトスはロイドですら見ていて不憫に思うほどに肩を落としていた。むろん、ロイドたちにはそれがなぜかはわからなかったが。


○マナの守護塔にて

 ――マナの守護塔。
 コレットの解くべき最後の封印は、ここにある。

 バラクラフ王廟で風の封印を解き、その出口で再び暗殺者――藤林しいなと戦い、そのあとルインで彼女と共に旅をすることになったロイド一行は、いよいよ最後の封印のあるこの地に足を踏み入れた。

「ここが、最後の封印のある場所かい……」

 世界再生を阻止するのを目的としてシルヴァラントにやってきたしいなは、複雑な表情でそうつぶやく。あまりにも小さなつぶやきだったためか、誰もそれを気にとめずに最上階へと歩を進めた。――天使化の影響で異常なほどに目や耳がよくなったコレットだけは例外だったが。
 しかし彼女もまた、なにも聞こえなかったふりをしてロイドの後ろに続いていた。

 いくつかの角を曲がって螺旋階段をのぼる。そうして入った部屋に一振りの巨大な剣と、愛嬌のあるクマのぬいぐるみが落ちているのに一番最初に気がついたのは、コレットだった。

 ロイドやクラトス、リフィルは不審に思わなくもなかったが、彼女はロイドたちが止める間もなくクマのぬいぐるみに向かって駆けてゆく。

「ぬいぐるみだ〜っ! ロイド、見て見て〜、塔の中にぬいぐるみだよ〜っ!」

 ――刹那!
 クマのぬいぐるみが不意に動き出し、コレットに向かってぶんと腕を振ってきた!

「きゃっ!」

 それに驚いたのか、バランスを崩してすっ転ぶコレット。ぬいぐるみに彼女のその動きを予想できていたはずもなく、振った腕は誰もいない虚空へと突き刺さる。

 そして、それがぬいぐるみの隙となった。しかし、それをカバーするかのように、床に落ちていた巨大な一振りの剣が宙に浮き上がり、コレットを狙う!

「コレット!」

 駆け出すロイド。その背にクラトスが声をかける。

「気を抜くなよ!」

「わかってるさ!」

 まずはコレットを狙っている宙を浮く剣の攻撃をやめさせなければならない。もはやお決まりのパターンとなっているが、ロイドは『獅子戦吼』で宙を浮く剣をふっ飛ばし、それから、

「虎牙烈斬(こがれつざん)っ!」

 クマのぬいぐるみを勢いよく斬り上げ、わずかに宙に浮いたところに思いっきり斬り下ろしを加えて床に叩きつけた。

「そのぬいぐるみは『リビングドール』、宙に浮く剣は『リビングソード』だよ!」

 スペクタクルズ越しに敵を見ていたしいなが声をあげる。

「どちらにも弱点はなし! リビングソードには物理攻撃も効きづらい!」

 彼女が言ったそばから、再びロイドに攻撃をしかけようとリビングソードが宙に浮かんだ。

「させるかっ!」

 それをくいとめるべく、リビングソードに斬りかかるクラトス。
 ロイドとコレットはいったん体勢を立て直すために、いまだダウンしたままのリビングドールから離れようと――
 ――刹那!

「うわっ!?」

 リビングドールの首が伸び、頭部がロイドの右肩をかすめた。

「あ、危ねぇ……」

 思わず冷や汗を浮かべるロイド。しかし攻撃パターンがわかりさえすれば、リビングドールの攻撃はさして怖くはない。

「魔神剣・双牙(そうが)!」

 双剣を振り、ロイドは魔神剣を2発放つ。しっかり狙いを定めて放ったそれらは、どちらもリビングドールを直撃した。

「レイシレーゼ!」

 そしてとどめとばかりに投げられたコレットのチャクラムがリビングドールを斬り裂く!
 これでリビングドールは戦闘不能。
 それと同時、タイミングよくクラトスのユニゾン・アタック開始の声が響き渡った。

「私に続け!」

「エンジェル・フェザー!」

「炸力符(さくりきふ)!」

 コレットの放つ3つの光輪がリビングソードに襲いかかり、続けて至近距離で繰り出したしいなの札が動きを止める。
 そしてそこに――

「風迅剣!」

 クラトスはユニゾン・アタックのときのために、空破衝を忘れて風迅剣を修得していた。そう、すべては『複合特技』を成立させるために。
 しかし――

「空破衝!」

 次にロイドが放ったのは、風迅剣ではなく空破衝だった。彼もまた、風迅剣を忘れ、空破衝を覚えていたのだ。

 四人の攻撃をくらったリビングソードが力を失い、地に落ちる。しかし、クラトスはそれを見届けることをせず、ロイドに詰め寄った。

「なぜ風迅剣を忘れたのだ!」

 クラトスの目がどことなく涙目になっていたように見えたのは、果たしてロイドの気のせいだったのだろうか。
 ともあれ、ロイドは答える。

「え、だって、前にクラトス、空破衝使ってただろ? 風迅剣よりも威力高そうだったからさ。なら空破衝を使えたほうがいいなぁ、って――お、おい、どうした? クラトス」

 ロイドが戸惑い気味に言ったセリフに、クラトスはがっくりと地に膝を突いてしまうのだった――。


後編につづく



――――作者のコメント(自己弁護?)

 どうも、ギャグてんこ盛りになる予定だった小説を贈らせてもらいました、ルーラーと申します。
 こちらにもイラストをいくつか投稿してもらったので、そのお礼、という形で書いてみましたが、いかがでしょうか?

 それにしても、ユニゾン・アタックを何回も書いていると、なんだか敵がかわいそうになってきます。ものすごくタコ殴りにされているので。
 今回は基本、シルヴァラントメンバーのみで話を進めましたが、後編ではゼロスも登場します。

 最後に。
 不慣れな三人称形式で書きましたが、どんなものでしょうか?
 もし楽しんで読んで頂けたなら、とても嬉しいです。

 それでは、引き続き後編も読んで頂けることを祈りつつ。







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